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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)10976号 判決

原告

富士ソフトウェア株式会社

右代表者代表取締役

野澤宏

右訴訟代表人弁護士

内田晴康

渡邊肇

金丸和弘

山岸良太

末吉亙

品川知久

龍村全

今村誠

被告

日本エス・イー株式会社

右代表者代表取締役

小林英愛

右訴訟代理人弁護士

堀裕一

青木秀茂

安田修

長尾節之

荒竹純一

野末寿一

佐藤恭一

千原曜

野中信敬

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の請求

被告は、原告に対し、金一億四六三二万三〇〇〇円(本件システム開発業務に関する機能追加業務を除くプログラム製作業務に対する報酬請求権、機能追加業務に対する報酬請求権の一部及び立替金償還請求権)及び内金一億四六一八万七〇〇〇円に対する昭和六二年七月三一日(支払請求の日の翌日)から支払済みまで、内金一三万六〇〇〇円に対する昭和六三年八月二五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで、それぞれ年六分の割合による金員(商事法定利率による遅延損害金)を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告からコンピュータ・プログラムの製作を依頼されて、被告との間で、業務委託契約を締結したが、その後、委託業務の内容が変更されたことに伴い、委託代金額を増額変更する旨を合意し、右増額変更後の委託業務を完成させたと主張し、被告に対して、相当報酬額等の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者等

(一) 原告及び被告は、いずれもコンピュータのシステム開発及びプログラム開発等を業とする会社である。

(二) 被告は、日本電気株式会社(以下「日電」という。)から、PC―9801VMコンピュータを使用した水力発電工事管理システム(以下「本件システム」という。)の開発業務を委託された。

本件システムは、東京電力株式会社(以下「東電」という。)が水力発電工事を発注するに際し、各工務所において実施する工事費用の積算及び工程の調整等をするために使用されるものである。

本件システムにおいては、工事名ごとの費用を「システム管理」で合計し、工事名ごとの費用の積算及び工程の調整を「請負工事費積算」において行い、作成された工事費のデータと「材料代積算」及び「その他積算」で作成された各費用のデータによって予算件名ごとのデータを作成し、さらに、「予算集約」によって、総件名のデータを作成することを目的としている。

2  業務委託契約の締結

(一) 被告は、日電から委託された本件システム開発業務を、昭和六一年七月ころ原告に依頼し、同年九月三日、原告との間で、被告が原告に対して電子計算器及びこれに付随する業務を委託すること、原告が委託業務を実施する場合は、個別業務ごとに個別契約を締結すること等を内容とする業務委託基本契約を締結し、同年八月一日付けの契約書(甲第三九号証)を取り交わし、次いで同年九月三〇日、原告との間で、本件システム開発業務のうち、以下の機能部分の業務を、被告が原告に対して代金二八六二万円で委託する旨の業務委託契約(甲第九号証、乙第二号証。以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) システム管理

(2) 請負工事費積算(直接工事費積算、工程調整、間接工事費積算及び概算積算)

(3) 材料代積算(購買積算、倉出入・技派積算)

(4) その他積算(標準非破壊検査、その他積算)

(5) 設計2

(6) 予算集約(データの転送、集約、検索)

(7) ユーティリティ

(8) 実績管理

(二) 原告及び被告は、同日、本件契約の納期について、本件契約書上は、全プログラムの納入日を昭和六二年一月末日と記載したが、本件契約書の記載とは別に、システム管理及び請負工事費積算部分については昭和六一年一一月末日を納期とし、その余の部分については昭和六二年一月末日を納期とする旨合意した。

(三) しかし、その後、原告が昭和六一年一一月末日に納入することになっていたシステム管理及び請負工事費積算部分の納入ができなかったため、原告及び被告は、同日、右部分を含む全機能部分の納期を昭和六二年一月末日に変更する旨合意した。

(四) ところが、原告は、全機能部分を昭和六二年一月末日に納入することが困難であったため、昭和六一年一二月一九日、被告に対して改めて納期を昭和六二年三月一六日に変更することを申し入れ、被告との間で、その旨合意した。

(五) 原告及び被告は、同年二月二五日、本件契約に基づく業務の内容を変更し、原告の受託業務をシステム管理、請負工事費積算及びユーティリティの一部のみに限定し、その余の部分は被告が自ら担当する旨合意した。そして、同年三月一三日、両者の社長会談において、原告の受託業務の納期を最終的に同年三月末日とする旨合意した。

二  争点

本件の争点は、①本件契約において原告が受託した業務の内容は何か、②右受託業務について、原告及び被告間で規模を拡大し代金を増額する旨の合意が成立したか、③機能追加作業について業務委託があったか、④原告の受託業務は完成したか、⑤原告のコンピュータ借受けについて、被告に対する立替金の償還請求権があるか、という点にある。

1  原告の受託業務の内容について

(一) 原告の主張

(1)原告が本件契約において受託した業務の内容は、被告がシステム設計をする三万五〇〇〇ステップ程度の規模の本件システムについて、プログラムの設計及び作成(プログラムの製作)並びにテスト業務を行うことである。

(2) システム設計とは、ユーザーとの打合せに基づいて、システムの概念、機能及び構造を決定し、開発規模を見積って開発工程(要求定義の工程)を確定した後、システムの利用環境、入出力設計、データ・コード設計、運用方式の設計、各プログラム間の機能決定、プログラム間のインターフェース(各プログラム間の情報の伝達条件)決定をする工程であり、システム設計の結果は、基本設計書及び詳細設計書に整理される。システム設計に基づいてロジックチャート、ユーザーマニュアル及びテストデータの作成等を行う工程がプログラム設計の工程であり、その後プログラムのコーディングを行うのがプログラムの作成である。

プログラムの製作をするためには、ユーザーが要求するシステムの機能に応じて、各プログラムの機能及びプログラム間のインターフェースが決定されており、システム設計が完成していることが不可欠の前提となる。本件では、東電及び日電との打合せは被告のみが行うことになっており、原告が東電等と直接打合せをすることは禁じられていたので、原告が受託業務を行うためには、被告がシステム設計をし、かつ、その結果が基本設計書及び詳細設計書に記載され書面化されていることが不可欠の前提となっていた。

(3) 被告は、昭和六一年一月三一日ころ、日電から本件システムの開発業務を受託し、同年七月、原告に対して本件システムのうちプログラム製作以降の開発業務を委託したが、この当時は、ユーザーの東電及び日電との打合せを継続しており、詳細設計の作成業務を行っている最中であって、末だ詳細設計を完成していなかった。

本件契約に際して、原告は、被告から本件システム全体の規模が三万五〇〇〇ステップ程度であることを示されたので、これを前提として委託代金を見積もり、同年九月三〇日付けで本件契約を締結したものである。

したがって、原告は、本件契約において、被告がシステム設計をし、全体の規模が三万五〇〇〇ステップ程度の詳細設計を完成させた上、これを原告に提供することを前提として、本件システムのプログラム製作及びテスト業務を受託したものである。

(二) 被告の主張

(1) 本件契約において原告が受託した業務の内容は、被告が原告に提供した基本設計書及び昭和六一年九月一五日版詳細設計書に基づいて、それ以降の本件システムを完成させることである。被告は、原告が主張するように、被告においてシステム設計を行うこと及びその全体規模を三万五〇〇〇ステップ程度にすることを原告との間で約束したことはない。

(2) 本件契約において、原告の受託業務は、「『水力発電工事管理システム』の設計・開発・サポートを目的としたシステム設計、プログラム開発、及び総合テスト」とされている。原告及び被告は、本件契約に先立ち、一八回にわたって技術打合せを行った。そのうち昭和六一年九月一五日の打合せの際には、被告は、原告に対して、「詳細設計書」(第二版)を提供するとともに、それまでに提供した基本設計書及び詳細設計書以上に詳しい書面は、今後提供しない旨告知した。

また、右技術打合せの際には、質疑応答の機会を随時設けていたから、原告が独自に本件システムの開発規模を見積もることは可能であった。本件契約書にも、開発規模は契約内容として記載されておらず、原告自身、受託業務開始当初は、「コンパル」というC言語ソースコード自動生成ソフトを用いて開発を行っていたから、プログラムの開発規模について格別関心がなかったことが明らかである。

(3) したがって、本件契約において原告が受託した業務の内容は、被告が原告に提供した基本設計書及び詳細設計書(第二版)に基づいて本件システムの開発業務を行うことであり、その規模について、被告が原告に対し、三万五〇〇〇ステップ程度であることを約束したことはない。

2  受託業務の規模拡大及び代金増額の合意について

(一) 原告の主張

(1) 原告が本件契約において当初受託した業務の内容は、前記のとおり、被告がシステム設計をする三万五〇〇〇ステップ程度の規模の本件システムについて、プログラムの設計及び作成(プログラムの製作)並びにテスト業務を行うことであり、右業務の対価として二八六二万円が委託代金とされた。しかし、後記の事情から、その後本件システムの規模が拡大することになったため、昭和六二年二月二五日、原告及び被告は、本件契約に基づく受託業務の範囲をシステム管理、請負工事費積算及びユーティリティの一部のプログラム製作とテスト業務に限定する旨の変更合意をしたが、それでも原告の受託業務の規模は一〇万一四五九ステップに達した。

(2) そこで、原告及び被告は、本件システムの規模が拡大し、原告の受託業務の規模も拡大したため、右受託業務の変更合意をした昭和六二年二月二五日、原告の委託代金額も増額変更する旨合意した。

そして、同年三月一三日に開かれた原告及び被告間の第一回社長会談で、規模が拡大した原因を調査し、原告のプログラム製作上のミスによって規模が拡大したものではないことが判明した場合には、原告が実際に行ったプログラム製作及びテスト業務に対する相当報酬を委託代金として支払うことを合意し、さらに、同年四月一五日に開かれた第二回社長会談において、原告の委託代金額を同年五月末日に協議して決定することを合意した。

しかし、被告が委託代金額を決定するための協議を一方的に打ち切ったため、委託代金額を決定することができず、被告は、原告に対して委託代金を一切支払っていない。

(3) 本件システムの規模が拡大した原因は、被告の原告に対する詳細設計書の提供が遅れ、断片的、五月雨式に詳細設計が提供されたことにある。そのため原告としては、予め受託業務全体を念頭において、機能の流用等により効率的に業務を行うことができず、ステップ数が拡大する結果となった。

すなわち、原告は、被告から、昭和六一年七月初め、プログラムの製作業務を依頼されたので、同月一六日付け見積書を被告に提示したところ、委託代金額を二八六二万七五〇〇円程度とすることで事実上合意が成立したため、プログラムの製作業務を開始した。その際、被告は、原告に対して、詳細設計書を同月一八日に提供する旨約束したが、同日中に提供はなく、その次に提供を約束した同月二一日の期限も守られず、同月末日に提供する旨弁明していた。

このように、被告からの詳細設計書の提供が遅れていたが、原告としては、被告から早期に業務を開始するよう要請されていたため、やむなく被告に対し、詳細設計書の提供に時間がかかるのであれば、詳細設計が確定した部分から順次提供するよう要望した。その結果、被告は、断片的、五月雨式に口頭で原告に対して詳細設計を提供するようになった。しかし、本件契約締結後も、被告は、東電及び日電と本件システムについて打合せを継続しており、最終的に原告の受託業務について詳細設計が確定したのは、昭和六二年一月になってからであった。その間、原告は、被告から順次詳細設計の一部の提供を受けながら作業を進捗させていた。

(4) 以上のとおり、本件システムの規模が拡大した原因は、被告が行うべき詳細設計の確定が遅れ、その結果原告が効率的に受託業務を行うことができなかったことにあり、原告が行った受託業務のプログラムステップ数は、右事情の下では被告のシステム設計に基づくプログラムの規模として妥当なものというべきであるから、原告のプログラム製作上のミスによって規模が拡大したものではない。

したがって、原告は、被告に対し、原告のプログラム製作及びテスト業務に対する相当報酬として委託代金を請求する権利を有するところ、原告の受託業務のプログラムは一〇万一〇〇〇ステップにも及び、その工数は合計二万八二五八時間(168.2人月)であるから、相当報酬額の計算の根拠である一人・一月当たりの単価及びこれに対する一〇パーセントの管理費の合計額八二万五〇〇〇円を基にして、原告の受託業務のうち機能追加部分を除くプログラム製作及びテスト業務に対する報酬額を計算すると、一億三八七六万五〇〇〇円となる。

(5) 仮に、第一回社長会談において、前記報酬についての合意が成立していないとしても、原告及び被告間の本件契約は、請負契約に該当するところ、昭和六二年二月二五日、受託業務の内容を変更する旨合意したものの、委託代金については合意が成立しておらず、代金額の定めのない請負契約である。したがって、原告は、商法五一二条に基づき、被告に対して相当の報酬である一億三八七六万五〇〇〇円の報酬請求権を有する。

(二) 被告の主張

(1) 原告及び被告間で、昭和六二年二月二五日、原告の受託業務を本件システムのうちシステム管理、請負工事費積算及びユーティリティの一部のプログラム製作とテスト業務に限定し、その余の部分は被告が担当する旨の合意が成立した。これは、昭和六一年一一月末日が納期とされていた原告のシステム管理及び請負工事費積算の業務が、原告の技術力不足により、右納期に納入することができず、その後も納期の延期が繰り返されたため、やむなく原告の受託業務を変更し、前記のとおり被告が一部を担当する旨合意したものである。したがって、原告の担当業務は、右変更によって減少したのであって、原告が主張するように、被告の責任によって本件システム全体の規模が拡大したため、原告の受託業務の内容を変更したものではない。

被告は、原告が主張するように、第一回社長会談で支払の合意をしたこともないし、第二回社長会談で委託代金額を同年五月末日に決定する旨合意したこともない。

(2) そもそも、本件契約は、その代金額をもって原告の受託業務(請負)に対する確定の対価とする旨合意した請負契約であり、受託業務に係るステップ数、単価等は、原告内部において請負代金額を算定する際の内部資料に過ぎず、ステップ数の増加等の事情は、請負代金とは全く無関係である。さらに、原告及び被告間で、本件契約において合意した確定代金額を、その後適用しないとか、変更する旨の合意をした事実はないから、商法五一二条を適用する余地はない。

3  機能追加作業の業務委託について

(一) 原告の主張

(1) 原告は、昭和六二年一月当時、被告の指示に基づき受託業務のうち請負工事費積算についての作業を先行させていたが、依然として被告の詳細設計が確定しなかったことから、同年三月末日までに請負工事費積算のプログラムを完成させるために、同年一月、被告との間で、同年二月一日以降の仕様変更・追加部分は、右三月末日納期分には含まれず、右仕様変更・追加部分の作業を機能追加作業とする旨合意した。

また、原告は、被告に対して、同年三月三一日(印刷機能部分以外のもの)及び同年四月一三日にそれぞれ納入したものについて発生した不具合の改修作業も、被告との合意により機能追加作業として行った。

(2) 原告及び被告は、同年四月一五日の第二回社長会談において、仕様変更・追加部分を盛り込んだ機能追加作業については、納期を同年五月末日とし、別途見積りを行う旨及び同年三月三一日版、同年四月一三日版に発生した不具合の改修作業については、当該不具合が発生した原因に応じて、原告、被告及び日電がそれぞれ改修作業の費用を負担すること、具体的には、東電及び日電による仕様変更・追加部分を盛り込んだ作業の費用については日電が負担し、被告の設計ミス・仕様抜けを改修する作業の費用については被告が負担し、原告のプログラム製作ミスを改修する作業の費用については原告が負担する旨合意した。

(3) 原告、被告及び日電は、同年四月七日以降、各不具合について個別に責任分類の検討を行い、同年六月一七日付け改善項目一覧(甲第一一九号証の一ないし四)記載のとおりに分類した。

原告は、同月二日、日電及び被告に対し、責任分類に基づいてそれぞれの責任に応じた各見積書を提出したところ、日電からは右見積書に基づく支払いがあった。一方、被告からは、右見積書(金額七三五万九〇〇〇円)に対して具体的な反論がされなかったため、原告は、特に異論がないものと判断して機能追加作業を続行した。

したがって、原告及び被告間では、原告の機能追加作業のうち、被告の責任によって生じた費用負担額は右見積書の金額とする旨の黙示の合意が成立したものということができるから、原告は、被告に対し、七三五万九〇〇〇円の報酬請求権を有するところ、本訴においては、うち七一九万四〇〇〇円を請求する。

(二) 被告の主張

原告及び被告間で、原告の機能追加作業のうち、被告の責任によって生じた費用の負担額を原告の前記見積書の金額とする旨の黙示の合意が成立したことはない。

4  原告の受託業務の完成について

(一)原告の主張

(1) 原告は、本件契約に基づく受託業務のうち、被告の本件システム設計に従ったシステム管理、請負工事費積算及びユーティリティの一部のプログラムの製作及びテスト業務を完了し、昭和六二年三月三一日、印刷機能部分を除いた部分を納入し、さらに、同年四月一三日、印刷機能部分を納入して、原告の右受託業務に係る部分の納入を完了した。

そして、同年六月一〇日、原告及び被告は、同年二月一日以降の仕様変更・追加部分についての機能追加作業を盛り込んだ納期を最終的に同年六月三〇日に変更する旨合意した。

すなわち、原告は、被告との間で、同年四月一五日の第二回社長会談において、機能追加作業の納期を前記のとおり同年五月末日としたが、その後も、東電から仕様変更を要請されたことから、右納期を同年六月一二日に変更した。しかし、更に東電から仕様変更の要請が続いたため、原告は、同月一〇日、被告に対する発注元で、被告の了解の下に納期の調整に当たっていた日電との間で、納期を同月三〇日に変更する旨合意した。そして、原告は、同日、被告に対し、同年二月一日以降に発生した仕様変更・追加部分を盛り込んだ機能追加作業部分を納入した。なお、被告は、同年四月以降、日電が原告と被告との間に入って納期等の調整を行うことを了解していた。

右納入後、東電は、同年六月三〇日版の使用を開始したが、更に仕様変更及び不具合が発生したため、原告は、その都度被告の発注元である日電に対して対応版をリリースし、同年九月一七日、これに対応するプログラムを納入した。しかし、印刷の障害が発生したため、同年一〇月六日に対応版をリリースした。それ以後障害は発生していない。

(2) 原告は、日電との間で、機能追加作業を含むプログラム製作業務の代金について、原告の提出した見積書に基づいて交渉した結果、日電の負担部分を一六二〇万円とする旨合意し、日電から、同年一〇月一日付けで同年九月一五日版に対する検収明細表が送付され、同年一一月五日、一六二〇万円の支払を受けた。

右機能追加作業は、同年四月一三日版プログラムに対する修正作業であるが、日電が機能追加作業のプログラムの検収を行い、日電の負担部分のプログラムについて右のとおり支払をしたことに照らしても、原告が機能追加作業を含めて全てのプログラムを完成したことは明らかである。

(二) 被告の主張

原告が昭和六二年三月三一日に被告に対して納入したフロッピーは作動せず、さらに同年四月一三日に納入したフロッピーも同様に作動しなかった。そこで、被告は、同月一一日及び同月一五日、右各フロッピーが作動しないことを原告に通知した上、遅くとも同年五月末日までに完成品を納入するよう申し入れたほか、同年四月三〇日付け書面において、納入とは認められない旨通知した。

しかし、最終納期を同年五月末日まで延期したにもかかわらず、原告は右納期に納入することができなかった。そこで、原告及び被告は、同年六月一一日に原告が持参するプログラムを検収対象とする旨合意した。原告は、納期を更に同月三〇日に変更した旨主張するが、被告は右変更に関与しておらず、右期日は被告が関与しないところで決定されたものである以上、原告及び被告間の納期として合意されたことにはならない。

被告は、原告が同月一一日に持参したプログラムについて検収を行った結果、不合格であったため、同年七月初旬、原告に対して検収不合格通知を送付した。

したがって、原告及び被告間の本件契約に基づくプログラムの納入はされておらず、受託業務は完成しなかった。

5  立替金の償還請求について

(一) 原告の主張

被告は、原告に対し、プログラム製作に必要な台数のコンピュータを提供する旨約束したにもかかわらず、これを提供しなかった。このため、原告は、コンピュータを自らの費用で借り受けた。

その費用は、合計三六万四〇〇〇円であり、原告は、被告に対し、右立替金の償還請求権を有する。

(二) 被告の主張

被告は、原告が主張するような約束をした事実はない。

第三  争点に対する判断

一  争点一について

1  本件契約において原告が被告から受託した業務の内容について、原告は、被告がシステム設計をする三万五〇〇〇ステップ程度の規模の本件システムについて、プログラムの製作及びテスト業務を行うことであり、そのためには、被告において右システム設計の結果を基本設計書及び詳細設計書に記載し、書面化して原告に提供することが不可欠の前提になっていた旨主張する。

これに対し、被告は、本件契約において原告が受託した業務の内容は、被告が原告に提供した基本設計書及び昭和六一年九月一五日版詳細設計書に基づいて、それ以降の本件システムを完成させることである旨反論する。

2  そこで、以下において、本件契約締結の経緯について検討するに、甲第二ないし第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第九号証、第一八号証、第三六ないし第四〇号証、第四六、第四八号証、第五七ないし第六一号証、第六七号証の二、第七一、第八五号証、乙第一、第二、第四、第五号証、第八ないし第一〇号証の各一、二、第一一ないし第一四号証、第一六、第一八、第一九、第二〇号証の各一、二、第二一号証、第二三証の一、二、第二五ないし第二七号証の各一、二、第二八、第三六、第四一、第四二号証、証人大庭浩司、同大島秀夫、同安永国弘及び同佐々木俊司の各証言並びに前記争いのない事実によると、次の事実が認められる。

(一) 原告を委託先に選定した経緯

東電は、水力発電工事に関する予算設計、スケジュール調整及び集約処理のコンピュータ化を目的とした本件システムの開発を計画し、日電に対して右開発業務を委託した。被告は、日電から委託された本件システムの開発業務について、昭和六一年二月以降、東電及び日電との間で、要求分析及び基本設計作業を中心とした打合せを行い、同年三月末には基本設計レベルの仕様を確定した。同年四月以降、当時被告のMC(マイクロ・コンピュータ)技術部主任であった佐々木俊司(以下「佐々木」という。)が引き続き機能設計作業を行い、詳細設計書の取りまとめを開始した。

当時、MC技術部では、本件システムの開発以外に大型案件を抱えていたこと等の事情から、本件システム開発を外注委託することにした。

本件システムは、C言語(オペレーティング・システム及び言語処理系統システムの記述に適したプログラミング言語)のシステムであるところ、同年六月中旬、当時のMC技術部課長補佐高橋満(以下「高橋」という。)は、コンパルというC言語商品を扱っていた原告が、C言語もできる技術力のある大会社であるとの情報を得たことから、原告を本件システム開発の外注委託先の候補とした。

高橋及び当時被告のMC技術部係長安永国弘(以下「安永」という。)は、本件システム開発を外注委託するに当たり、委託内容を検討した結果、これまで佐々木が行ってきた本件システム開発のうち基本設計及び機能設計作業を生かすため、右作業終了後の部分からプログラム開発の完了までの工程を原告に委託することにし、委託方式については、従来、確定総額を示すか、あるいは希望総額を提示してその範囲内での開発業務を委託するという方法を採用していたことから、今回は定額委託方式にすることにした。

(二) 本件契約の締結に至る経緯

原告及び被告の担当者は、昭和六一年七月一日から本件契約を締結した同年九月三〇日までの間、次のとおり本件システム開発に関する技術打合せ等を行った。

(1) 昭和六一年七月一日

被告担当者の高橋及び安永は、昭和六一年七月一日、原告担当者の三浦洋一及び大島秀夫(以下「大島」という。)に対し、本件システム開発について次のとおり説明等を行った。

本件システムは、ユーザーが水力発電工事の個別予算や年間予算に関する稟議用資料を作成するために開発するものであり、本件システムのボリュームは最大三万五〇〇〇ステップ、工数は三五ないし四〇人月と見込まれること、同年七月中旬に作業を開始し、同年一〇月末ころ本件システムの一部についてデモンストレーションを行い、昭和六二年一月末日に完成させる予定であること及び本件システム開発に関するユーザーとの打合せは全て被告が行うことを説明した上、原告に対する委託業務としては、本件システムの詳細設計からシステムテスト及び操作マニュアルの作成作業までを依頼したい旨説明した。

これに対して、原告担当者は、原告の単金と被告が予測している工数及び生産性を参酌して委託代金額を算出し、委託代金額は一人月八二万五〇〇〇円(一人当たり七五万円に管理費一〇パーセントを加算した額)に三五人月(三万五〇〇〇ステップを一人月一〇〇〇ステップで割った工数)を乗じた金額であり、三〇〇〇万円以下になると返答し、被告担当者も、右提示金額を了承した。

そして、今後の予定については、原告の要員確保ができれば、被告の提供する資料に基づいて技術打合せをすることになったが、被告は原告に対し、納期が迫っているので昭和六一年七月中旬には製作作業を開始するよう要請した。

(2) 七月二日

翌七月二日、大島は、当時の原告取締役事業所統括部部長大庭浩司(以下「大庭」という。)に被告との前記打合せの内容を報告した上、本件プログラム製作の総括責任者となった植英俊(以下「植」という。)に受注報告書(甲第四八号証)を作成させた(原告登録番号一一NSE〇二二〇)。

(3) 七月三日

翌七月三日、大島及び植は、被告との打合せの席上、高橋及び佐々木に対し、本件システム開発業務の製作を受託する旨伝えた。

そこで、高橋は、本件システムのユーザーは東電、発注元は日電であり、被告の原告に対する委託予算は二五〇〇万円程度であるので、早急に開発作業に着手するとともに概算見積書を提出するよう要請した。

被告は、原告に対し、機能仕様書(機能設計書)及び詳細仕様書(詳細設計書)等提供物件一覧(甲第六号証の一)記載の物件を提供し、原告は、被告に対し、納品物件一覧(甲第六号証の二)記載の物件を納入することとなり、同日、被告から原告に対し、日電がユーザーの東電向けに作成した機能仕様書(甲第五七号証)が提供された。

(4) 七月九日

原告は、本件システム開発に関するプロジェクトの技術責任者に犬飼敦弘(以下「犬飼」という。)を指名した。植及び犬飼は、概算工数を算出し、同月九日、被告に対して委託代金の概算額三三〇〇万円ないし三〇〇〇万円程度を提示し(甲第五号証)、右金額は被告算出の三万五〇〇〇ステップを基に算定した数字であることを説明した。

これに対して、被告担当者は、日電に対しては右金額に若干上乗せして提出したいので、原告の見積書を提出するように依頼した。

そして、前回原告に提供された機能仕様書の内容について、原告の質問管理票(乙第八号証の二)により質疑応答が行われ、被告から原告に対し、PC9801テクニカルマニュアル、UCGリファレンスマニュアル及びDBCⅢ機能詳細マニュアルが貸与された。

(5) 七月一六日

同年七月一六日、原告が見積明細書(甲第七号証)を提出し、これに関する打合せを行った。

右見積明細書には、原告の作業内容は、被告の提供する機能仕様書及び詳細仕様書に基づき、東電向け水力発電工事管理システムの開発作業を行うことであり、その作業範囲は、機能仕様書の分析から本件システム検査完了までであり、その作業条件として、本件システム開発に必要なマシン、ソフトウェア及びツール等は、同年八月一八日までに被告が原告に対してすべて提供する旨記載されている(但し、被告は、同月一八日までにマシンを用意することは約束できない旨返答した。)ほか、原告の作業工数は三万五〇〇〇ステップ、34.70人月で、代金は二八六二万七五〇〇円と記載されている。

(6) 七月二一日

同年七月二一日、技術面に関する打合せを行い、被告から原告に対し、機能概要図、概略フローチャート等が交付された。佐々木は、機能変更が出ているので、確定するのは同月末になること及び詳細設計書を提供するのもそのころになることを説明したが、原告担当者は、作業能率を上げるために仕様を小出しにしてほしい旨要望した。各プログラム中には流用部分があるので、被告は、本件システムに関して、概要説明を行うことにした。

当日も、質問管理票(乙第九号証の二)に基づき、質疑応答が行われた。

(7) 七月二三日から同月三〇日まで

同年七月二三日から同月三〇日までの間四回にわたり、被告は、本件システムの概要説明を行った。

被告は、同月二三日、原告に対して最新版のオペレーションチャート(乙第四号証の詳細設計書、四一六ないし四六〇頁)を提供して、本件システム管理、直接工事費(直工)抽出、概算積算について概要説明を行い、同月二四日、直工抽出、工程調整、間接工事費積算について概要説明を行い、同月二八日、ファイル項目一覧(乙第四号証、一一ないし七二頁)及び材料代積算画面フロー(同四四二ないし四四九頁)を提供して材料代積算、発注条件について概要説明を行い、さらに同月三〇日、非破壊検査積算資料(乙第四号証、四一五頁)、dBCライブラリ関数一覧表(データベースアクセスツール=データベースの読み方を指示する機能のマニュアル)、BPDモジュール仕様書(被告作成のライブラリのマニュアル)を提供し、委託費用、検索、ユーティリティ、予算集約について概要説明を行った。

被告担当者は、右四日間で、本件システム全体の概要説明を行ったが、原告担当者から右概要説明に対する質問がほとんどなかったので、その後引き続き詳細設計書及びdBCの説明を行うことにした。

(8) 八月四日

被告担当者は、同年八月四日から、詳細設計レベルの説明を開始し、宿泊費計算式の注意点、機能的ペンディング事項(単価更新のエスカレーション、ブラインド機能、工程調整の縦計セーブ、環境対策費、金額調整)及びdBCについて説明を行った。

同日、原告担当者は、被告担当者に対し、これまで被告が行った概要説明をまとめた機能概略書(乙第五号証)を提出した。

(9) 八月六日

同月六日、被告担当者は、一部残されていた仕様の確定時期について、検索、ユーティリティを同月末までに確定することはできず、確定は同年一〇月末になること及び同年一一月初めには検索、ユーティリティの開発を開始できるであろうと説明した。原告担当者が、dBC、UCG等のテストを行いたいと申し出たので、被告担当者は、同年八月二五日の週までに開発用マシンの準備をすることを約束した。

(10) 八月七日

同月七日、被告は、詳細設計書(第一版)を提供し、MS―DOS Ver3.1、UCGライブラリ、dBCライブラリ、LatticeCライブラリ、BPDライブラリ、SPRITE(デバッガ)及びSPRITEのマニュアルを貸与し、工程調整、間接工事費積算についての追加説明をし、コード体系、dBC基本パターン等の説明をし、これによって詳細設計の説明をほぼ完了した。

(11) 八月二〇日

同月二〇日、被告担当者は、詳細仕様の提供時期について、間接工事費積算は同月二五日、直工抽出、工程調整は同月二九日から同年九月一日ころまでの間に提供できること、ユーティリティ及び検索以外は同月中旬までに完成することを説明し、詳細設計に関する質疑応答を行った。

同年八月二〇日、被告は、原告に対し、本件システム用のウィンドウ表示と画面の縮小表示等のデモ用モジュールを提供した。

(12) 八月二一日

同月一九日、被告は、原告に対して基本契約書案を送付し、同月二一日、原告との電話連絡により、基本契約締結後に個別契約を取り交わすこと及び個別契約と同時期に原告から見積書正式版を被告に交付することを合意した。

(13) 八月二二日から九月四日まで

同年八月二二日、原告及び被告は、同年一一月末日に原告から被告に納入される委託業務の内容は、予算集約及びユーティリティを除く部分であることを決定した。そして、システム管理(初期概略フローのみ)、検索及び機械損料に関して、本件プログラム仕様書作成時の問題点を質疑応答により解決するための作業(イメージ合わせ)を行った。

さらに、同年八月二八日、材料代積算に関する質疑応答を行い、被告担当者は、工程調整、共通機械経費積算に関する注意点を説明し、間接工事費積算に関する詳細設計書に一部変更が生じたため、最新版を原告に提供した。また、同年九月三日、発注条件、直工抽出、間接工事費積算、材料代積算、ユーティリティに関する質疑応答を行ったが、被告担当者は、詳細設計書を同年八月末日までに提供できず、同年九月一六日ころに提供することを説明した。

同年九月四日、原告は、発注条件、直工抽出に関する質問管理票を被告に送付し、被告は、これに対して回答した。

(14) 九月五日

同月五日、被告担当者は、原告担当者に対し、詳細設計書のインターフェース仕様について、これ以上詳しいものを提供すると、原告の受託業務がプログラマー的なものではなくコーダーのような仕事になってしまうので、より詳細な資料は提供しない旨を告げ、原告の要望に応じて(甲第一八号証)、詳細設計の確定時期を具体的に明示するとともに、納期については、同年一一月末日に検索以外の本件システム管理及び請負工事費積算を、昭和六二年一月末日に右以外の作業部分を確実に納入するよう要請した。

(15) 九月一六日

昭和六一年九月一五日、被告は、ユーザーとの間の仕様がほぼ確定したので、翌一六日、原告に対し、詳細設計書(第二版)を提供した。なお、本件システム全体ではなお留保中の仕様もあったが、これについては、後日確定する旨合意した。

(三) 本件契約の締結

原告及び被告は、同年九月三日、基本契約を締結し、さらに、同月三〇日、本件契約を締結した。

(1) 基本契約の締結

被告は、昭和六一年八月一九日、原告に対し、基本契約書の原案を送付し、双方で条項を検討した上、同年九月三日、基本契約を締結した(甲第三九号証)。

(2) 本件契約の締結

同月三日、原告から提出されていた見積書(甲第七号証)について話合いが行われ、被告担当者から、管理費の値下げ(一〇パーセントから七パーセントへの値下げ)要請がされたが、原告担当者は、管理費は会社全体で設定されている基準であることから下げられない旨答えた。

次に、被告担当者から、見積書の委託代金二八六二万七五〇〇円について、六二万円値引きしてほしい旨の要請があったが、原告担当者は、ボリュームの増加、仕様確定時期の遅れや効率上の問題等があり、見積資料等が不十分であるため総価格で決めざるを得なかったこと、一回目に三〇〇〇万円以上の提示をした後に値引きしているので、これ以上の値引きはできないと答えた。結局、同月一〇日、原告及び被告は、最終的に委託代金額を二八六二万円とする旨合意した。

同月二二日、原告から被告に対し、委託代金額を二八六二万円とした見積書正式版(甲第八号証)が提出され、同月三〇日、本件契約が締結され、同日付け業務委託・受託契約書(甲第九号証、乙第二号証)が取り交わされた。

(3) 見積書及び契約書の内容

原告は、被告に対して同月二二日に提出した見積書において、決定価格を二八六二万円とし、作業内容を被告の提供に係る機能仕様書及び詳細設計書に基づいて、東電向けの水力発電工事管理システムの開発作業を行うこと、作業範囲を機能仕様書の分析よりシステム検査完了まで、作業工数を三万五〇〇〇ステップ、納期を昭和六二年一月三〇日、検収を試験実施後一か月としていた。

右見積書を受けて、本件契約書においては、原告の業務内容を水力発電工事管理システムの設計・開発・サポートを目的としたシステム設計、プログラム開発及び総合テスト、対象機種をNECPC―9801VM、納入品目をソースプログラムフロッピーディスク一セット等九点、納期を昭和六二年一月三〇日とした上、納入後一か月以内に検収作業を行うこと、業務の対価(受託開発料)を二八六二万円とすること等が明記された。

原告は、本件契約を締結した後、被告との間で、本件システムの実績管理概要に関する設計方針の変更等について話合いをしたが、昭和六一年一二月五日、被告から、画面ライブラリ等とのインターフェースを先に決めて作成作業に早く取りかかるよう指示された。

3  以上の事実関係に基づいて、原告が被告から受託した業務の内容について検討する。

(一) 被告は、当初、日電から受託を受けた本件システムの開発業務を自ら行うことを予定し、作業を開始していたが、他の業務遂行との関係で外注委託せざるを得なくなり、それまでに被告が作成していた本件システム開発のうち基本設計及び機能設計作業を生かすため、右の作業終了後の部分からプログラム開発の完了までの工程を外注委託することにした。そして、本件システムがC言語のシステムであったところ、当時原告がコンパルというC言語商品を扱っていたことから、原告を外注委託先の候補にしたものである。

(二) 被告は、原告に対して本件システムの開発業務を委託するに当たり、本件システムの詳細設計からシステムテスト及び操作マニュアルの作成作業までを依頼したい旨伝えており、また、原告及び被告の担当者間で行われた打合せ等の際にも、本件システムの概要を説明したり、詳細設計書を提供してその内容を説明し、原告作成の質問管理票に基づいて口頭又は書面で質疑応答するなど本件システムの内容について随時必要な説明を行ってきた。昭和六一年八月七日には、詳細設計書(第一版)を、同年九月一六日には詳細設計書(第二版)を提供し、同月五日には、被告から原告に対し、原告の受託業務が、プログラマー的なものではなく、コーダーのような仕事になってしまうので、より詳細な資料は提供しない旨を告げている。

同月一六日時点で、本件システム全体ではなお留保中の仕様もあったが、これについては後日確定する旨合意しており、原告は、そのことを前提として本件契約を締結したものである。

(三) 原告は、昭和六一年九月三日、被告に提出した見積書において、原告の作業内容を被告提供の機能仕様書及び詳細設計書に基づいて、東電向け水力発電工事管理システムの開発作業を行うこと、作業範囲を機能仕様書の分析よりシステム検査完了までと明記し、本件契約書においても、原告の業務内容は、本件システムのシステム設計、プログラム開発及び総合テストと明記されている。

(四) 原告の受託業務は、被告が提供した基本設計及び機能設計作業以後プログラム開発業務の完了までを行うことであり、本件システム設計を被告が行い、プログラム製作を原告が行うような作業区分は存在しない。

(五) 原告の受託業務の規模(作業工数)については、被告が原告との間で本件システム開発の打合せを開始した昭和六一年七月一日当時、詳細設計書は完成しておらず、被告は、本件システムの規模は最大三万五〇〇〇ステップ、工数は三五ないし四〇人月と見込まれると説明し、実際に詳細設計書(第二版)が確定したのは同年九月一六日であった。一方、原告は、同年七月九日、委託代金の概算額を三三〇〇万円ないし三〇〇〇万円程度と見積もり、被告に対して、右金額は被告算出の三万五〇〇〇ステップを基に算定した数字であると説明した。原告が同月一六日に被告に提出した見積明細書(甲第七号証)には、原告の作業工数は三万五〇〇〇ステップ、34.70人月で、代金は二八六二万七五〇〇円と記載されており、また、原告が同年九月二二日、被告に提出した正式な見積書(甲第八号証)にも、決定価格二八六二万円、作業工数三万五〇〇〇ステップと記載されている。

ところで、原告の受託業務は、被告から提供された機能仕様書及び詳細設計書により本件システムの開発業務を行うことであるから、本件システム設計の作業も当然に含まれるのであって、原告との間で打合せを開始した当初は、被告の詳細設計書は完成していなかったものの、原告及び被告が本件契約を締結した同年九月三〇日までの間に、双方の担当者が十数回にわたって技術打合せ等を重ね、被告担当者は本件システム及び詳細設計書の内容等について説明を行い、随時、質疑応答を実施し、同年八月七日に詳細設計書(第一版)を、同年九月一六日に詳細設計書(第二版)を原告に提供したことは前記のとおりである。したがって、専門的知識、能力を有する原告としては、本件契約を締結するまでの間において、本件システムの内容を十分に理解し、それを前提として原告の受託業務の規模及び範囲等を原告の立場において判断し、見積額を算定することが可能な状況にあったものである。

原告は、被告から、交渉開始の段階で作業工数三万五〇〇〇ステップを示された後、同年七月九日に三三〇〇万円ないし三〇〇〇万円の概算を算定し、同月一六日の見積書では二八六二万七五〇〇円と算定し、さらに同年九月三日の交渉では、被告に対し、見積資料等が不十分なため総価格で決めざるを得なかったことを説明し、同月一〇日、最終的に委託代金額を二八六二万円にすることを了承したものである。本件契約書には、業務の対価を総額二八六二万円とすること等の約定事項が具体的に記載されているが、作業工数の記載はない。

以上要するに、本件契約において、原告の受託業務の規模が三万五〇〇〇ステップ程度であることを前提として委託代金額を決定した事実は存在しないのである。

二  争点二について

1  原告は、本件契約締結後本件システムの規模が拡大することになったため、被告との間で原告の委託代金額を増額変更する旨合意し、第一回社長会談で、規模が拡大した原因を調査し、原告に責任がないことが判明した場合には、原告が実際に行ったプログラム製作及びテスト業務に対する相当報酬を委託代金として支払うこと、第二回社長会談で、原告の委託代金額を昭和六二年五月末日に協議して決定することを合意した旨主張するのに対し、被告は、右のような合意は成立していない旨反論する。

2  そこで、検討するに、前記認定事実に、甲第一〇ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第二三ないし第二五号証、第二七、第二九、第三〇、第三二、第三四号証、第四四ないし第四六号証、第七一、第一二一号証、乙第四一、第四二号証、第四四号証の四、六、九、証人大庭浩司、同大島秀夫、同中村久雄、同安永国弘、同萩野正久の各証言及び原告・被告各代表者本人尋問の結果並びに前記争いのない事実によると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、前記のとおり、昭和六一年七月から被告と本件システムの開発業務に関する技術打合せ等を開始し、同年九月三〇日に本件契約を締結したが、その後、本件システムの規模が著しく拡大する見込みとなった。

そのため、原告は、同年一〇月二九日、被告に対し、同年一一月末日納入予定分につき、規模の拡大によって予定どおり完成するかどうか不安な状況にあることを伝え、さらに、同月五日には、ステップ数が増加したので委託代金の増額について考慮してほしい旨要望したところ、被告は、同月末日の納期を昭和六二年一月末日に延期することを承諾した。

ところが、本件システムの規模が更に拡大する見通しになったため、原告は、昭和六一年一二月一九日、受託業務を請負工事費積算に限定し、納期を約定の昭和六二年一月末日から同年三月三一日に変更するよう被告に申し入れた。そこで、被告は、同年二月二五日、原告の受託業務を本件システムのうちシステム管理、請負工事費積算及びユーティリティの一部のプログラム製作とテスト業務に限定し、その余の部分は被告が担当することを提案し、原告もこれを了承した。そして、被告は、委託代金については、基本的には本件契約書に従って判断するが、まず本件システムの開発物件の完成を最優先し、完成後に両者間で前向きに検討して決定したい旨原告に伝えた。しかし、原告がその後も納期の変更等契約内容の見直しを求めたことから、同年三月一三日、第一回社長会談が開かれた。

(二) 第一回社長会談において、原告は、本件契約の委託代金額及び納期等について見直しを要請したが、被告は、これには応じないで、当面早期に原告の受託業務を終了して被告に納入することが第一の急務であり、原告の右申し入れについてはその後双方で話合いをしたい旨答えた。当日は、結局、被告が日電及び東電と交渉を重ねることにし、本件システムの開発業務はそれと並行して進めていくことになった。

なお、規模が拡大した原因について双方の意見が対立し、原告が、委託代金額及び納期の問題を解決するために第三者による調査を希望したので、被告も前向きに検討することを約束した。

(三) 原告は、同月二〇日付けの書面を被告に送付し、その中で、完成予想工数を示した上、大幅な工数超過の原因に関する被告の今後の調査によって、原告にさしたる落ち度、過失がないことが判明した場合には、発注者側である被告の責任において補償するよう求めた。そして、同月二三日の協議の際、原告が右書面に対する被告の回答を書面でするよう求めたところ、被告は、早急に回答することは難しいが努力する、規模の拡大の点については、現在日電と交渉中であり、規模の評価については一、二週間を要する旨答え、同日付けの書面で、原告に対し、第一回社長会談での要望に従って、被告が現在本件システムの見積工数と作業条件に関する調査を行っているが、原告においても受注者側の落ち度、過失の有無ないし不都合等について調査することを要望し、さらに、同年四月二日付けの書面で、現在なお調査検討中であることを伝えた。

これに対して、原告は、新たな委託代金額が決定しない限り機能追加分についての作業は開始しない旨伝えていたが、同月三日付けの書面で、工数見直しに伴う被告の補償について回答が得られない限り、原告としては見積書の提出及び作業の着手はしない旨を通告するとともに、来る同月六日までに被告の調査結果を回答するよう要請した。

(四) 同年四月一五日、日電担当者も同席して第二回社長会談が開かれた。

席上、被告は、原告に対し、同年三月三一日に原告が納入した請負積算部分(印刷機能を除く)のプログラムのバグ(不具合)について早急に対処し、受託業務を同年五月末日までに完成するよう要望した。一方、原告は、被告に対し、本件システムの規模の拡大及び代金の変更に対する被告の対応に不満を抱いており、従前からの原告の契約見直し等の申入れに対して被告が具体的な回答をしなかったことに不信感を持っていることを明らかにした。

これに対して被告は、委託代金額については日電と協議しているが、納入物件の品質が悪いため増額の合意が成立しにくい状態であることを説明した。結局、原告と被告との間で、委託代金の話合いを同年五月末日に行うことになった。

その後も、双方の担当者が協議を続けたが、同年六月一〇日の交渉では、原告が、当初の見積書は被告の提示した三万五〇〇〇ステップという工数を信頼して提出した旨主張したのに対し、被告は、原告が正式な見積書を提出するまでに一九回もの技術打合せ等を行っており、原告の右主張には納得ができないと反論して譲らなかった。右交渉を通じて双方の認識に基本的に相違があることが再確認されたため、今後、各自再調査を実施して協議することになった。

(五) しかし、その後協議が進展しないまま時間が経過していたところ、同年六月二四日、被告は、原告に対して開発肩代わり費用等の補償を請求する旨の書面を送付し、同年七月二日の交渉において、右補償請求の書面は、被告の原告に対する損害賠償請求であることが明らかにされ、これ以上は話合いによって解決することが不可能な状況に立ち至った。

3  右認定事実に基づいて検討するに、昭和六二年三月一三日の第一回社長会談においては、原告側が強く要請した契約の見直しについては、明確な合意には至らず、被告が今後日電及び東電と交渉を重ねることになったにとどまる。また、同年四月一五日の第二回社長会談においては、委託代金の話合いを同年五月末日に行うことを約束したに過ぎず、その後更に協議が続けられたが、具体的な進展がないまま話合いが不可能な状況に立ち至ったものである。

以上要するに、原告及び被告間において、原告の委託代金額を変更すること及び本件システムの規模の拡大について原告に責任がないことが判明した場合には、原告の相当報酬を委託代金として被告が支払う旨の合意が成立した事実は存しないのである。

4  原告は、仮に社長会談における報酬の合意の成立が認められないとしても、本件契約は請負契約であるところ、昭和六二年二月二五日、当初の受託業務の内容を変更する旨合意したが、委託代金の合意が成立しておらず、代金額の定めのない請負契約であるから、商法五一二条が適用され、相当の報酬額である一億三八七六万五〇〇〇円の請求権を有する旨主張するのに対し、被告は、合意した確定代金額を変更する旨の合意は成立していないから、原告の主張は失当である旨反論するので、検討する。

前記認定のとおり、原告の受託業務が昭和六二年二月二五日に変更され、システム管理、請負工事費積算及びユーティリティの一部のみに限定され、その余は被告が担当することになったが、右変更後の原告の業務は当初の契約内容に従った開発業務の範囲内であることに変わりはなく、右業務に関する対価は、本件契約当初に確定代金として約定されている委託代金額ですべてカバーされているものである。しかも、同年四月一五日の第二回社長会談においては、委託代金についての話合いを同年五月末日に行うことが約束されたのみであり、原告及び被告間で、本件契約に基づく委託代金額を変更ないし適用しない旨の合意が成立した事実は認められない。したがって、原告の本件契約に基づく受託業務の対価は、契約当初の委託代金額であると認められる。

よって、原告の被告に対する商法五一二条に基づく報酬請求権の主張は理由がない。

三  争点三について

1  原告は、昭和六二年二月一日以降の仕様変更・追加部分の作業を機能追加作業とし、また、同年三月三一日及び同年四月一三日に納入したものについて発生した不具合の改修作業も機能追加作業として行い、前者については、別途見積りを行い、後者については、不具合の発生原因に応じて、原告、被告及び日電が改修作業の費用を負担し、被告に責任がある部分については被告が負担する旨の合意が成立した旨主張するのに対し、被告は、これを争う。

2  そこで、検討するに、前記認定事実に、甲第六号証の一、二、第九、第二五、第二六号証、第二八ないし第三〇号証、第四四ないし第四六号証、第五三、第八四、第八八、第一〇四、第一〇九号証、第一一〇号証の一、二、第一一一、第一一二号証、第一一七号証の一ないし一〇、乙第四一、第四二号証及び証人大庭浩司、同中村久雄、同安永国弘、同萩野正久の各証言並びに前記争いのない事実によると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和六二年一月二二日の協議の際、留保されている仕様を早急に提出してもらいたい旨被告に要求したところ、被告は、同年二月九日、付託の按分、工事名一覧における子工事名の表示及び水車について記載した仕様変更、仕様追加一覧を原告に提供した。

ところが、同年三月一三日の第一回社長会談において、原告及び被告間で、本件システム規模の拡大に伴う補償問題が議題になり、原告が同月二〇日付けの書面で、被告に対し、右問題に関する被告との話合いがついてから仕様変更分の作業に着手する旨通知したため、被告は、同月二三日、仕様変更については、原告から別途見積書(金額、工程)の提出をしてもらうことにした。

(二) しかし、同月二九日に行われた話合いの席上、被告は、水車、付託の按分は基本仕様書に記載があるとして仕様変更とは認めず、従前の仕様変更と認めるとの発言は間違いであると述べ、原告との間で、前記三点(付託の按分、工事名一覧における子工事名の表示、水車)を仕様変更とするかどうかについて意見が対立した。

被告は、同年四月二日、付託の按分及び水車につき、双方で認識が異なることは確認しているが、とにかく開発作業を行ってほしい旨要請した。しかし、原告が補償に関する被告の回答が得られるまでの間は、見積書を提出して作業に着手することを拒んだため、同月一五日の第二回社長会談の席上、日電が間に入り、前記三点の仕様変更について、別途原告が被告を経由して見積書を提出するよう指示した。そこで、原告は、同年六月二日、被告に対して機能追加分の見積書(甲第八八号証)を提出し、翌三日、日電に対し、機能追加の見積明細書とともに参考のために右被告分の見積書を提出した。

(三) また、原告、被告及び日電は、同年四月七日以降、各不具合について個別にユーザー、設計及び製造の三者間の責任分類の検討を行い、具体的には東電及び日電による仕様変更、追加を盛り込む作業は日電が負担し、被告の設計ミス、仕様抜けを改修する作業は被告が負担し、原告のプログラム製作ミスを改修する作業は原告が負担する旨話し合った。

(四) 原告は、同年六月一〇日、被告に対し、同月二日に提出した見積書は、同年四月以降の作業内容で仕様抜け、設計ミスの責任は被告にあるとする日電の見解に基づいて作成したものであることを説明したところ、被告は、原告及び日電間で決定している改善項目及び被告の判断が入っていない項目があるので内容を確認したい旨答えた。しかし、同月二四日、被告が原告に対し、作業の肩代わり費用及び機械の損失金の補償を請求したことから、同年七月二日原告及び被告の協議は決裂し、以後、弁護士を通じて話合いをすることになった。

他方、日電は、同年九月一〇日、原告に対して機能追加分に関する注文書(一二NEJ〇一四〇、甲第一〇九号証)を発行し、同月一七日、原告は、機能追加分を日電に納入し(甲第一〇四号証)、同年一〇月一九日、日電から右代金の支払を受けた(甲第一一〇号証の一及び二、第一一一号証)。

3  以上のとおり、被告は、付託の按分、工事名一覧における子工事名の表示及び水車に関する仕様について、基本仕様書に記載があることから仕様変更とは認めておらず、仕様変更とする旨の従前の発言については撤回する旨言明し、原告に対しては、右認識が異なることを確認していると述べた上で開発作業を進めるよう要請していること、日電の指示によって原告が見積書を作成していること、右見積書に対して、被告は、内容を確認する旨答えたが、その後、本件システム開発に関する一切の話合いができない状態になったことが認められるのであって、被告は、前記三点を新たな仕様変更とは考えていないことが明らかである。

さらに、原告、被告及び日電は、昭和六二年四月七日以降、納入物件の改善についての責任分類の検討を行ったが、乙第四四号証の一三によると、同年三月三一日、被告、東電及び日電が行った打合せの際、日電から被告に対し、原告に今後の作業を速やかに行ってもらうために責任分類の話合いにおいては、被告の発言を押さえるようにとの指示があったことが認められる。また、甲第八四号証によると、同年五月九日及び同月二〇日には、原告、東電及び日電の三者で改善項目を決定したが、それには被告は出席していないことが認められる。そもそも、日電は、原告及び被告間の本件契約締結以前の技術打合せ等には全く関与していない。さらに、甲第一一七号証の一ないし一〇、第一一八号証の一及び二、第一一九号証の一ないし四、第一三二号証によると、原告は、日電から直接改善項目一覧を入手したものと推測され、被告は、同年六月一〇日、原告作成の見積書について、原告及び日電のみで決定したもので、被告の判断が入っていない改善項目もあり、内容を確認する旨表明している。

以上のとおり、原告及び被告間で、仕様変更・追加部分の作業を盛り込む作業及び原告の納入物の不具合のうち被告に責任がある改修部分については、被告が費用を負担する旨の合意が成立した事実は存在しない。

四  争点四について

1  原告は、被告に対し、本件契約に基づく受託業務を完成させたことを理由に委託代金の請求をしているところ、委託代金の増額変更の合意及び商法五一二条に基づく相当報酬請求権の主張が認められないことは前記認定のとおりであり、これを前提とする請求は理由がない。もっとも、原告が行った本件システムの開発業務は、請負契約としての性質を有する本件契約に基づいて履行されたものであるから、約定に基づいて受託業務を完成させた場合には、本件契約に基づく委託代金を請求することができることはいうまでもない。そこで、原告の本件契約に基づく受託業務が完成したか否かについて検討する。

2  前記認定事実に、甲第一四ないし第一六号証、第三一、第三三、第三四、第四二、第五二、第七八、第七九号証、第九一号証の一ないし六、第九三、第九四号証、第九七ないし第一〇五号証、第一〇七、第一〇九号証、第一一〇号証の一、第一一一、第一二一号証、第一二四号証の一ないし五、第一二九号証、第一三二ないし第一三四号証、乙第三七、第四二号証、第四四号証の一三ないし一五、一七ないし二〇(乙第四四号証の一九は一九の一、二)、第四五、第四六、第四八、第四九、第五三号証、証人中村久雄、同萩野正久の各証言及び原告・被告各代表者本人尋問の結果並びに前記争いのない事実によると、次の事実が認められる。

(一) 原告及び被告は、本件契約に基づく当初の納期を変更し、昭和六二年三月三一日を納期とする旨合意していたので、同日、原告は、被告に対して、同年二月九日に追加された付託の按分、工事名一覧における子工事名の表示及び水車を除くプログラムについて、印刷機能部分を除いた部分(モジュール仕様書、検査仕様報告書、製作仕様書、プログラム仕様書等)を納入した。しかし、同年四月一一日に被告から概算積算等の未動作等の不具合を指摘されたので、不具合を改修した上、同月一三日、印刷機能を付加したプログラムを納入した。

しかし、同日、被告が検収したところ、入力データのセーブができない不具合が多発し、完全には作動しなかったため、原告に早急の対処を要請した。そして、原告、被告及び日電は、同月一五日の第二回社長会談において、今後の方針を協議した結果、前記機能追加部分を含むプログラムの納期を同年五月末日にするとともに、原告において右不具合を修正する旨合意した。

その後、同月九日及び同月二五日の協議の際、原告から、一部の納入物件の納期を同年六月一二日に延期してほしい旨の申入れがあったので、被告もこれを了承し、同月二日の協議の際、同月一二日納入版を最終版とすることを再確認した。

(二) 原告は、同年四月以降、本件システムの規模の拡大及び代金の変更に対する被告の対応に不満を抱いており、被告が具体的な回答をしなかったことに不信感を持っていたため、本件契約当事者でない日電と直接何度かにわたって話合いを行っていたが、最終納期限の同年六月一二日の遵守が困難な状況となった。そこで、原告は、日電と交渉して納期を同月末日に変更することの承諾を取り付け、同月一〇日の被告との協議の席上で、被告に対し、先に約束した同月一二日版は最終版とはならず、同月末日納入版をもって最終版とすることに日電も了承済みである旨説明し、同月一一日に納入した後、同月三〇日、本件システムの開発に関する受託業務の完成品であるとして被告に持参して納入した。しかし、被告は、同日、原告から一旦は預かったものの、本件契約に基づく正規の納入物件とは認めず、納期の約定に従って同月一一日に原告から納入されたものをもって最終版であるとして検収の対象とした。右検収の結果、機能削除及び仕様相違の不具合が多く、最終仕様とは大きくかけ離れていることが明らかになったため、不合格とし、その旨を同年七月六日、原告に通知した。

(三) 原告は、同年七月二一日、日電に対し、同年六月三〇日版を修正したモジュールをリリースしたい旨申し入れたが、日電は、被告側が同年七月の開発については原告から連絡を受けていないことから、日電としては同月二一日版の成果物は受け取れない、同日版ロードモジュールは預かるが、同年六月三〇日版の納入物件一覧表及びフロッピーディスクについては、被告を経由しての作業依頼であるから、直接日電が受領することはできないとして原告に返却した。

原告は、日電に対し、同年八月二一日及び同月三一日に本件システムの不具合対処後のモジュールをリリースし、同年九月一七日に、「東電水力発電工事管理システム支援」(登録番号一二NEJ〇一四〇)という件名で、同月一五日版のソースプログラムファイル、オブジェクトファイルフロッピーディスク等を納入し、同年一〇年六日に障害対処版をリリースした。

(四) 日電は、原告に対し、昭和六二年八月二一日には、東電にリリースされた本件プログラムが山梨、群馬の各所で使われていると説明し、同年一二月八日には、原告の納入物件にその後不具合は生じておらず、全部について作り直すことは無理で、修正するとしてもスピードアップが主であると説明し、また、昭和六三年三月一一日には、原告が日電に納入したものが東電に納められ、本格的な運用に使用されていると説明した。

しかし、本件システムの開発業務のうち原告の受託業務部分については、被告が昭和六二年六月から作り直しを始め、これを完了した上で最終的に同年一二月ころ日電に納入した。被告は、昭和六二年三月三一日、東電から、本件システムの原告受託業務部分については、作り直した方がよいと言われ、同年四月三〇日、日電から、納期の同年五月末日完成に向けて、原告に作業を進めてもらうために、被告も日電に全面的に協力し、もし、右納期までに完成しない場合は、全てを見直し、被告単独で再製造を行ってほしいと言われた。また、日電は、同年五月一一日、東電に本件システムの請負工事費積算の作り直しを提案し、同年六月一八日には、被告に対し、原告の納入物件について東電との間でスクラップの話が出ている旨伝えた。さらに、日電は、同年一二月、被告に対し、原告の受託業務部分について、スピードアップ修正を依頼し、被告がこれを行った。

(五) 原告は、日電に本件システムの応用機能である機能追加部分を納入し、日電から右代金の支払を受けた。これは、原告が日電に対して、同年六月二日、機能追加部分について同年五月二七日版要求定義書により代金を一六七八万円とする見積書を提出し、双方で協議した結果、同年九月一七日、代金を一六二〇万円とする旨の合意が成立したので、日電の検収を経た後、同年一〇月三〇日に支払を受けたものである。

したがって、日電から支払われた右代金には、本件システムの開発業務についての原告の委託代金は含まれていないから、右代金の支払があったことを根拠として本件システムを原告が完成したことにはならない。

3  以上の事実関係に基づいて、以下検討する。

(一) 本件契約上の当事者は原告及び被告であって、日電は本件契約に関しては部外者の立場にあり、原告が被告の発注元である日電との間で、本件契約の納期を昭和六二年六月三〇日に変更する旨の合意をしたとしても、被告が事前又は事後にこれを承諾するか、あるいは原告又は日電が被告からあらかじめ変更の権限を授与されていない限り、本件契約の納期を変更する効力が生じないことはいうまでもない。

しかし、前記事実によっても、被告が右納期の変更を承諾したり、変更の権限を授与したとは認められないのであって、かえって、被告は、同月三〇日に原告が納入したものを正規に受領しておらず、同月一一日版をもって検収の対象としていたものであり、最終納期は同月一二日としていたことが明らかであるから、原告及び日電間の右変更合意は、何ら被告を拘束するものではない。

一方、日電としても、同年七月二一日、本件システムの開発業務は被告を経由しての作業依頼であるから、同年六月三〇日版の納入物件一覧表等を受領することはできないとして、原告に返却した。

(二) 原告が同年六月一一日、被告に納入した物件について、被告が検収を行った結果、不合格となったので、その旨同年七月六日付け書面で原告に通知した。

そして、被告の検収報告書(乙第四六号証)及び日電が昭和六二年六月一七日原告に対して交付した改善項目一覧表(甲第一三二号証)によると、不具合の原因が原告、被告のいずれにあるか見解の対立があるが、原告にも原因がある部分が存在することは否定することができない。

さらに、前記のとおり、原告が日電に納入した成果物が東電に納入され、本格的に稼働し、現在も使用されていることは認められないのである。

4  以上によると、原告が本件システムの開発業務を完成させたとは認められないから、原告の被告に対する報酬請求権は理由がない。

五  争点五について

原告は、被告からプログラム製作に必要な台数のコンピュータの提供を受ける旨約束したのに、被告がこれを提供しなかったため、原告自らの費用で借り受けたとして、立替金の償還請求権を有する旨主張する。

甲第八、第九号証によると、本件契約の締結に当たり、被告が原告に対して対応機種の機械を貸与することを約束したことが認められ、甲第一二一号証によると、昭和六二年一月から同年三月までの間、原告が九台の機械(PC―9801)を第三者から借り入れ、リース代として一台当たり一万三五〇〇円、合計三六万四五〇〇円を支払ったことが認められる。しかし、本件契約において、被告が貸与を約束した機械が明確には特定されておらず、原告が借り入れた機械がそれに該当するか否か疑問が残るといわざるを得ない。

したがって、原告の立替金の償還請求権を認めることは困難である。

第四  結論

以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大藤敏 裁判官窪木稔 裁判官相川いずみは、差し支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官大藤敏)

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